最高裁判所第一小法廷 昭和52年(行ツ)63号 判決 1978年6月15日
名古屋市昭和区御器所一丁目一三番地
上告人
住田一義
右訴訟代理人弁護士
原田武彦
名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤塚一番の四
被上告人
昭和税務署長
池ケ谷周司
右指定代理人
藤井光二
右当事者間の名古屋高等裁判所昭和五一年(行コ)第一号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五二年三月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。
よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人原田武彦の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか又は原審の確定しない事実をあげて原審の判断を非難するものであつて、採用することはできない。
よつて行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本山亨 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里)
(昭和五二年(行ツ)第六三号 上告人 住田一義)
上告代理人原田武彦の上告理由
本件上告理由の要点は、原判決の理由と、理由中に引用する第一審判決の理由は、左記の諸点により、不合理且つ、不適法であつて破棄を免れない、というにある、原判決及これが引用する第一審判決の理由のうち、上告人の貸金元本と、その利息乃至損害金の計算は、第一審判決添付別表(四)とその説明となる別表(五)の一乃至別表(九)のような内容となることは、争いのないところである。(多少異る点もあるがこれは暫く措く)そして、そのうち利息が上告人の所得となるかどうかについて、金融業を営むことを業とするか、業としないかの点に触れる以前の問題として、根本的な問題点が存在する。
一、先づ上告人の貸金債権のうち前記別表(五)の一乃至(五)の三の奥村産業合資会社らに対する分については、上告人提出にかかる各証拠(特に甲第六号証配当表)被上告人提出の乙第五号証の一、二、などによつて顕著に判ることは、当時即ち本件課税年度においては、(1)利息収入は現実にはなかつたこと、(2)そして元本は勿論利息又は損害金の回収の見込は、皆無に等しい状態であつたことが明かである。上告人はこの元金と利息回収のため、あらゆる努力を続けてはいたものの、右右証拠で明かなように、元本債権の存在も一部において否定せられている上、担保の不動産について先順位債権者が存在し、債務会社は解散して営業を廃止し、個人である奥村繁藤は死亡し、その相続人らは家庭裁判所に相続の放棄の申述をし、到底元本債権も利息も回収し得ないことが明かである。
二、 次に有限会社大日工業所に対する貸金(第一審判決添付別表(四)の4)の元本及利息も乙第七号証の一、二およびこの事件の判決により元金及利息の回収は不能であり、回収の見込はないことが明かである。
三、 さて、右二個の貸金と、利息の回収が現実に不能であることは明白である、一方において計数上算出される利息は現実の収入の存否とは関係なく前記の如き数字となることも認めざるを得ないであろう。この様な場合の所得税の対照となる所得は、未回収利息も、所得として算出して申告し課税の対照とすべきか、未回収利息でも、回収困難が予想されるか、回収不能に陥る危険がある場合には、その年度の未収利息として申告義務が存しないのではないか、そのいずれが正しいかである。
四、個人の所得申告は、複雑な複式簿記的算定だとか、合式の損益計算書などの作成能力のないため、現実に収入が存在したもののみを、当該年度の収入とし、必要経費も、未払分については、現実に支出した年度の経費に計上する所謂単純計算方式により課税所得が算出されるべきであり、本件のごとき、現実に回収不能が予測され、回収困難に陥つているような場合には、特に現実に利息の収入があつた年度において、その収入を計上すれば足りるものと解すべきである、(所得税法第三五条にいう雑所得の算出は右のような場合には、現実に回収ができた所得を算出すれば足り、未回収利息をも、所得として算出する必要はないと解すべきである。)
五、更に加えて、上告人と訴外奥村産業合資会社外二人のグループとの貸金と利息の問題について、名古屋簡易裁判所において訴提起前の和解が成立し、同訴外人らは、前記別表(五)の一乃至三の各元金債権と利息乃至損害金債権の存在を否認し、上告人は右各債権の回収不能を理由とする債権の放棄をすることとなつた。(後に和解調書を提出する予定)但し右訴外人のうち加藤あさ子は右放棄に対する謝礼金の意味で和解成立と同時に金五〇万円支払うことを約定している。
右和解の成立の趣旨は、本件所得算定の基礎となる貸金の存否が争われ、本件年度における利息乃至損害金について、当時回収が不能であつたことが確認されたことになり、原判決の理由は根本的に覆される結果を招来するに至つたのである。だから、右和解調書の効力は確定判決と同じ効力があるので、上告審においても、上告理由として主張することが許されるべきであつて、再審の理由に該らないものと解すべきである。
六、以上の理由から原判決は、法令の適用解釈に重大な誤りがあることとなり、事実認定は根本的に覆され、理由不備となり、少くとも審理不尽となつて原審への差戻を免れ得ない。
以上